ホントのトコロ~獣医師チップ先生のコラムで正しい知識を~
- 第1回「遺伝性の病気 ~雑種と純血種で違いはあるのか~」
- 第2回「避妊・去勢手術 ~一般的な手術だからこそ~」
- 第3回「共通感染症 ~猫から人にうつる病気~」
- 第4回「猫の栄養管理 ~食餌から健康管理を考える~」
- 第5回「遺伝性の病気Ⅱ ~知っておいてほしいこと~」
- 第6回「小動物医療の現場 ~高度医療とホームドクター~」
- 第7回-1「猫の3大感染症 ~第1回 * 猫白血病(FeLV)~」
- 第7回-2「猫の3大感染症 ~第2回 * 猫エイズ(FIV)~」
- 第7回-3「猫の3大感染症 ~第3回 * 猫伝染性腹膜炎(FIP)~」
猫の3大感染症 ~第3回 * 猫伝染性腹膜炎(FIP)~ | 2007/7(vol.7-3)
これらの病気はぜひとも皆様に正しい知識を得ておいていただきたいので3週に分けてお届けします。第3週目は「猫伝染性腹膜炎」です。byニャンダフル
今回は猫のウイルス病のうち、「猫白血病」、「猫エイズ」、「猫伝染性腹膜炎」についてお話ししようと思います。これらは日常の診療で比較的よくみられる病気ですが、様々な症状を示すうえ、診断や治療は難しく、十分な予防もできません。また、私が飼い主さんに対して、これらの病気について説明している時はいつも、「説明がちょっと難しくなってしまって、分かりづらかったかな?」などと考えてしまいます。今回のお話を読んでもらうことで、今まで分かりにくかった私の説明を、少しでも補うことができればいいなあと思っています。
猫伝染性腹膜炎(FIP)という病気は、猫コロナウイルスのうち、FIPウイルスの感染によって起こります。ただ、猫のコロナウイルスは、このFIPウイルスと猫腸コロナウイルスに分けられてはいますが、それらは感染する部位やみられる症状が違うだけで、ほとんど同じウイルスです。つまり、同じコロナウイルスのなかで、毒力の強いタイプをFIPウイルスと呼んで区別しているだけなのです。また、強い毒力を持っていないタイプのコロナウイルスでも、猫の持つ免疫力や感染したウイルスが体内で変異することによって、強毒なFIPウイルスになってしまう場合があります。
この病気では、コロナウイルスに感染している猫の糞便、口や鼻からの分泌物が感染源となります。生後間もない仔猫が、病気を持つ母親から感染することもあるようです。 多くの猫ではこのウイルスに感染したとしても、自分のもつ免疫力によって回復します。ただ、一部の猫はウイルスを排除することができずに、腸にウイルスを保有するようになります。そして、腸に残ったウイルスは常にFIPウイルスになる可能性を持っているのです。腸コロナウイルスが腸の細胞でのみ増殖し、下痢を引き起こすのに対して、FIPウイルスは体内のマクロファージという免疫細胞に感染し、全身に広がります。
ウイルス感染から発症までの期間は、ウイルスの毒力や変異、猫の持つ免疫力や猫にかかるストレスなど、様々な要因に関係しているため、一概にはいえません。ただ、いったん発症した場合、その症状は進行性で、対する有効な治療方法がないため、ほとんどの猫は死亡してしまいます。
病気の初期には、発熱や食欲不振、嘔吐、下痢などの症状がみられます。そのころ、体内ではウイルスに抗体がくっつくことで、ウイルスを排除しようという働きがみられます。しかし、そのウイルスに抗体がくっついた物質に対し、各臓器ではアレルギーに似た反応(免疫反応)が起きてしまうのです。その結果、全身の各種臓器に炎症や壊死、化膿が見られるようになります。そしてFIPという病名の由来となった、胸水や腹水の貯留する症状や、腎臓、眼、脳神経など全身の各種臓器に炎症が起きる症状がみられます。 病気の治療はウイルスを抑え、排除するものではなく、この免疫反応を軽減するために、ステロイド剤や他の消炎剤、免疫抑制剤を使用することか、症状に応じて対症療法を行うことになります。また、このウイルスはマクロファージという免疫細胞に感染することもあって、発症を十分に予防できるようなワクチンを作ることはできません。
病気の診断は、症状といくつかの検査を組み合わせて総合的に判断します。特に、血液中の抗体の値(抗体価)を測定することは大切です。しかし、病気の時期によっては、症状がみられても抗体価が上昇しない場合があるため、必要があれば繰り返し検査を行います。加えて、血液検査による蛋白分画の測定、胸水や腹水が貯留するタイプではその性状の検査、神経症状がみられる場合は脳脊髄液の検査、各種臓器の超音波検査や組織検査など、症状にあわせた検査を併用し、診断を確定します。
抗体検査について少しお話ししましょう。抗体検査では、コロナウイルスに対する抗体の量を数値(抗体価)にして評価します。ただ、検査機関によって感染の目安となる数値が異なりますので、注意しましょう。抗体検査では、コロナウイルスが感染した履歴がわかります。つまり、症状が見られる猫ちゃんで、抗体価が高い場合はFIPの感染と判断します。ただ、数値はグレーゾーンのことも多く、例えば病気の末期では抗体価が上昇しないこともあるため、判断に迷ってしまう場合も少なくありません。その際には、先に述べたように、症状や他の検査結果をふまえ、慎重に診断していかなければなりません。 症状がみられず抗体価が高い場合には、検査を繰り返し行い、数値が減少していくかどうかを確認します。数値が減少しない場合には、猫ちゃんはコロナウイルスを保有していると判断します。また、この場合はウイルスを排泄し、感染源になっている可能性があることや、今後FIPが発症する可能性があることを考慮しなければならないでしょう。
今回は、少し難しいお話になってしまいました。これらの予防できない、治療できないウイルスの病気に対しては、感染猫との接触を防ぐことと、なるべく猫ちゃんにストレスをかけないということが大切です。そのためのいろいろな方法や、いろいろな考え方がありますが、それを実行するためにはおうちの状況や、飼い主さんの考え方なども影響してきます。獣医師とともに、おうちにあった最適な方法を考えていかなければなりません。