ホントのトコロ~獣医師チップ先生のコラムで正しい知識を~
共通感染症 ~猫から人にうつる病気~ | 2006/8(vol.3)
猫ちゃんとより快適に暮らしていくためにはどのような知識が必要なのか、どのようなことを皆さんに教えてあげればいいのか、と最近よく考えています。なぜなら病気を治すことだけではなく、病気の予防や体のケア、観察方法、食生活などについて、それぞれのおうちと猫ちゃんにあった方法を一緒に考えていくことも、獣医師の仕事だと思っているからです。
以前、まだ目の開いていない仔猫を保護した飼い主さんがいました。そのお宅では、家族全員が交代で毎日きちんと仔猫の世話をしてくれました。そのかいあって、仔猫は順調に成長していったのです。生後間もない仔猫を人が育てることは非常に大変なことだと思います。ある日、その飼い主さんがこう言いました。「なんとか人に渡せるまで大きく出来ました。うちでは仕事の関係でこれ以上は一緒に暮らせないのですが、もらってくれる人が見つかりました。ただ、そこの奥さんが妊娠中らしく、猫からうつる病気について心配しているようなのです。」と。一生懸命育ててくれた猫ちゃんですから、そんなことで肩身の狭い思いをさせるわけにはいかないと思い、私はいろいろと説明しました。ただ、そのような相談があるとは思ってもいなかったので、言葉足らずなところも多くあっただろうと、今更ながら反省しています。
そのことから、猫と人が快適に暮らすために、猫からうつる可能性のある病気について、飼い主さんに教えてあげることも必要だと考えました。家族の誰かが風邪をひいたため、他のみんなも風邪ひいてしまったということはよくある話でしょう。ただ家族の一員とはいえ、猫から病気がうつると聞くと、怖いというイメージがわいてきます。それは、普段は想定していないということや、それらの病気について知識が無いことなどが原因となっているのでしょう。現在の日本では、猫から人に病気がうつることは、そう多くありません。ただ万が一にもそうなった場合、猫だけのせいになってしまうのは悲しいことです。なぜなら、多くの場合で、きちんとした知識さえあれば回避できたのではないかと思うからです。最近、猫からうつる病気についての情報を、いろいろなところで知ることができるようになりました。また、以前に比べると、より正確な情報が得られるようになっています。それは、とても好ましいことだと思います。
多くの飼い主さんは、猫ちゃんが自分たちに害をなす病気を持っているとは考えていません。それは仕方の無いことだと思います。確かに、現在の日本では猫から病気がうつる可能性は高くありませんし、もし猫から病気がうつったとしても、自然に、もしくは対症的な治療で良くなってしまうものがほとんどだからです。猫から重篤な病気がうつる可能性が高いとしたら、私たち獣医師は十分な診察ができなくなるばかりか、命がいくつあっても足りません。しかし、世の中には猫に好意を持っている人ばかりいるわけではないのです。また最近では、動物からうつる感染症に対しての意識が高くなってきていることもあり、これから猫ちゃんと一緒に暮らしていこうと思う人は、これらの病気に対する最低限の知識は持っておくべきだと思います。
猫からうつる病気には、猫にも人にも病状を示すものと、人にのみ病状を示すものがあります。また、猫から直接うつるものと、伝搬者を介してうつるものがあります。そして、原因となる物質や菌を猫が正常でも持っている(常在と言います。)ものと、通常はもっていないものがあります。
皆さんが猫からうつる病気について考える際には、おうちにおける病気に対する危険度について把握しましょう。まず、現在の猫ちゃんの暮らしぶりについて考えてみてください。おうちの中だけで生活しているのでしょうか、それとも外に遊びにいくことがありますか。おうちの中だけで生活している猫ちゃんは、飼い主さんとの接触がより密だと考えられます。そのため、猫ちゃんに常在している病原体が原因となる病気について考える必要があるでしょう。また、外に遊びにいく猫ちゃんであったなら、それに加えて外来の病気や病気の媒介者を持ち込むことにも気をつけなければなりません。
つぎにご自身の家族について考えましょう。猫ちゃんから病気がうつる確率が高くなるのは、乳児、幼児、慢性的な病気を持っている人、高齢者です。それらに当てはまる人が家族にいる場合には、猫ちゃんとの間に多少のルールを作る必要があります。例えば、過度な接し方をやめる、寝床や部屋を別にする、猫ちゃんの嫌がることをして引っ掻かれないように注意する、などです。もし、猫ちゃんから引っ掻かれた部分が腫れるようならば、早めに病院を受診しましょう。そうならないように、定期的に猫ちゃんの爪を切ってあげることも大切です。他にも部屋をきちんと掃除する、猫のトイレを清潔にする、きちんと手洗いをする、などがあげられますが、これらは特別なことではありません。おそらく、あまり意識しないで、皆さんが普段やっていることばかりだと思います。
ただ、猫に常在している菌が原因でおこるQ熱やパスツレラ症という病気については、完全に予防することが難しいでしょう。しかし、その原因となる菌はそんなに強い菌ではありませんから、飼い主さんご自身が健康管理に気をつけていただければ、そう易々と感染するものではありません。もし病気に一致する症状がみられる場合や、どうしても気になるという場合は、病院で診察を受けてみてはいかがでしょうか。また、トキソプラズマ症という、昔から妊婦さんを怖がらせている病気があります。この病気でも、猫ちゃんが病気を持っているかということより、人が病気に対する免疫力を持っているかどうかの方が大切になりますから、飼い主さん(妊婦さん)の検査のほうを先に行うべきでしょう。
猫に病状を示す病気について、猫ちゃんが病気の場合は治療のために動物病院に連れていくはずです。その際に、人にうつる可能性のある病気だと診断されたなら、おうちでの注意点や対策について獣医師に教えてもらえば良いと思います。また、猫ちゃんにノミやダニ、回虫、条虫などの駆虫を定期的に行うことも、結果的には人にうつる病気の予防になります。つまり、猫ちゃんの健康管理を行うことで、人にうつる病気や病気の媒介者から人を守ることになるのです。
今回のお話を読んでくれた方が、猫からうつる病気について気にかけてくれるようになり、結果としてみんなが快適にくらせるようになればいいなあと思っています。また、一度はおうちの状況にあわせた病気の予防法を、かかりつけの獣医さんに相談してみても良いのではないでしょうか。