ホントのトコロ~獣医師チップ先生のコラムで正しい知識を~
遺伝性の病気 ~雑種と純血種で違いはあるのか~ | 2006/4(vol.1)
飼い主さんが病気についての正しい知識を得ることで、猫ちゃんに対する日頃の観察や病気の予防、生活管理のやり方を知ることができ、またそれらに対する意識の向上にもつながります。このコラムを書くことが、少しでもそのお手伝いになればと思っています。今回は、病気の遺伝についてのいろいろな考え方についてお話しします。ただ、私の現在の知識では遺伝についての詳しい話をすることが出来ないことと、最近は遺伝病についての話があちこちで聞けることから、「私なりのお話」をしてみたいと思います。
遺伝性の病気とは、ある病気が発症しやすくなる遺伝子を親から受け継いでしまったために起こります。近年の遺伝子解析技術の向上から、ある種類の猫に多い病気を調べてみると、それを引き起こす遺伝子が発見されたという場合もあります。その中には先天的に体の組織が正常な構造や機能を持たない病気(先天性の奇形や臓器の機能欠損など)と、後天的に発症してしまう病気(心筋症や腎臓嚢包など)があります。また、病気の発症要因として、食餌や環境、薬物や他の病気などが加わることもあるでしょう。 遺伝性の病気に対する対処法として、程度は様々ですが、手術が必要になる場合や内科的な維持が必要になる場合があります。猫に対する獣医学では、病気の遺伝子診断が実用化されていないため、遺伝性の病気の発症前診断や予防、遺伝子レベルでの治療はできません。そのため、遺伝性の病気に対して、発症したら治らないまま命を落としてしまうというイメージを持っている方が多いと思います。
★新しい猫ちゃんをおうちに迎えようとする時でしょうか。もし、この種類の猫にはこんな病気が多いという情報が得られたとします。でも、その種類の全ての猫が病気の遺伝子を持っているわけではありませんし、他の種類の猫にも同じ病気が見られることがあるでしょう。また、見た目だけでは病気の遺伝子を持っているかどうかもわかりません。そのうえ、それを調べる方法もありません。しかし、この猫種にはこの病気が多いという情報をきちんと知っておくことは大切だと思います。なぜなら、猫ちゃんの近親に病気を発症した猫がいないかどうかを確認する気持ちや、猫ちゃんに対して定期的な診察や検査をきちんと受けさせる気持ちなどが持てると思うからです。
★おうちの猫ちゃんが動物病院で遺伝が関係している病気と診断された時でしょうか。しかしその場合、病気の遺伝子をもっていることが判明するのは、病気が発症してからになります。ただ、遺伝性の病気だからといって治療をあきらめるわけにはいきません。確かに、きちんとした治療や管理を行っても、良い状態を維持できる場合はそう多くありませんが、それでも病気の症状や程度にあわせて猫ちゃんに負担をかけないような方法を考えていかなければならないでしょう。このため、遺伝性の病気について調べたり、考えたりしても予防や治療には結びつかないし、無駄なことだと思っている方もいるでしょう。しかし皆さんが病気についての知識を得ることで、遺伝性の病気をなくそうという意識を持てば、不幸な病気を持った猫ちゃんが生まれて来る確率を減らすことができると思います。
遺伝性の病気について調べる時に、そこで使われている言葉が難しくて分からない場合が多いでしょう(私もそうです)。しかし、難しい言葉よりも、「親が正常だから大丈夫」ではないことを知ることの方が大切だと思います。そのためには、「常染色体劣性遺伝」と「X連鎖性遺伝」という言葉について知っておいてください。
「常染色体性劣性遺伝病」とは、両方の親猫が病気の遺伝子を持っていて初めて発症する病気です。片親だけが病気の遺伝子を持っていても発症しません。しかし発症しなくても、親猫が持っている病気の遺伝子は次の仔猫へ受け継がれます。そのため、ある猫ちゃんのお家に生まれた1頭がその遺伝性の病気を発症したとしたら、親は2頭とも病気の遺伝子を持っていることになり、その兄弟もほとんどが病気の遺伝子を持っているということになります。
「X連鎖性遺伝病」とは母猫が病気の遺伝子を持っていて、仔猫の雄に病気の遺伝子が受け継がれることで発症する病気です。その場合、病気の遺伝子を持っていても、母猫や仔猫の雌には症状がみられません。家族のうち、発症していない雄は病気の遺伝子を持っていないといえますが、雌は発症していなくても病気の遺伝子を持っている可能性が高いと考えられます。
遺伝というものについて考える場合に「純血種は弱くて雑種は強い」と言う話がよく出てきます。自然界で生き延び、生活地域に適合した遺伝子をもっている雑種の猫ちゃんは弱いはずがありません。そこで最後に、私は皆さんにいくつかの疑問を投げかけてみようと思います。
家庭で飼われている猫ちゃんは本当に自然界で生き延びることができる遺伝子の持ち主か。親猫から捨てられて保護された猫ちゃんも多いはずです。いわゆる洋猫との雑種は、同じ雑種でも地域に適合した遺伝子を持っているのか。日本猫と洋猫との雑種交配は、まだまだ歴史が浅いと思います。もしかしたら、日本猫同士の雑種よりも生存率が低いかもしれません。
日本人の生活習慣の変化に、雑種猫の遺伝子は適応できているのか。猫と人の生活圏は近いため、猫の生活環境も変化してきていると思います。長生きした場合に発症する病気の遺伝子もあるはず。屋外で生活している猫ちゃんの寿命は短いため、家庭内で長生きするようになった雑種の猫ちゃんに多く見られるようになった病気もあるはずです。
人為的な交配が行えるということは、上手に病気の発症をコントロールできる可能性があるということです。その純血種の猫ちゃんが家庭内できちんとした生活を送る場合、本当に雑種猫との違いは出てくるでしょうか。
さて、皆さんはどう思いますか。