ホントのトコロ~獣医師チップ先生のコラムで正しい知識を~
猫の栄養管理 ~食餌から健康管理を考える~ | 2006/10(vol.4)
「食べる」ということは生きていく上で必要な、当たり前の行為です。私たちはほとんど意識せずに、時間が来たら食べる、お腹がすいたら食べる、とこの行為を繰り返しています。それでも、そんなに意識しているわけでもないのに、ある程度バランスのとれた食事ができています。その理由としては、無意識に必要な栄養素を摂取している、例えば「今日はこんな物が食べたいなあ。」と思うことなどがあげられます。また、食事に対する最低限度の知識、というより感覚と言って良いのかもしれませんが、「こんな物ばかり食べていては体に悪いから、たまには違う物を食べてみよう。」とか、「最近はこの栄養素が不足している感じがするから、今日はこれを食べよう。」などと考えることもあるでしょう。ただ、それらは前提として、様々な食材や食事が手に入りやすく、その中から好きな物を自分で選べるということが必要になってきます。
「適切な栄養や食事は,健康のため、快適に生きるために大切だ」というのは、みなさんにとって当たり前のことでしょう。それは、人だけでなく猫ちゃんにとってもそうでしょう。最近の飼い主さんは、猫の栄養についての知識を持っていて、みなさんなりの考え方で、猫ちゃんの健康を意識した食生活を実践されていると思います。そこで今回は、健康管理の基本と言われている、猫ちゃんの栄養管理についてお話しします。
猫ちゃんに必要な栄養を過不足なく与えることで、健康が維持でき、病気の発生率を下げることができるというのは誰でもわかる理屈でしょう。ただ、猫ちゃんの栄養管理は難しいというイメージがあります。健康に良いとわかっていても、猫は思うように食べてくれないとよく言われます。また、飼い主さん側の問題としては、性急すぎる判断、知識の不確かさ、人の感覚を猫にそのまま当てはめていることなどがあげられます。そのうえ、実際に食事管理や栄養管理を行うのは、適切な体型ではないと判断された猫ちゃんか、病気の猫ちゃんです。そうなってから、つまり体の代謝バランスが異常になってからや、食欲がなくなってから、新しい味や制限のある食餌に変更するのは、猫ちゃんの性質や飼い主さんの心情を考えると余計に難しいことでしょう。
また、猫ちゃんに栄養管理や食餌管理を行うといっても、手作り食の難しさを考えると、市販のフードから良いものを選ぶということになります。管理が本当に必要な猫ちゃんには、病状にあうように作られた食餌(処方食)を選ぶしかありません。一般的には、自分なりに信頼のおける会社の製品から、ライフステージなど猫ちゃんの状態にあった食餌や、ドライやウエットなどの形態や味つけなどから好みそうな食餌を選びます。そして、その量や与え方を考えます。食餌の品質表示については、考えすぎや比べすぎで訳が分から無くなることが多いので、カロリー計算のためや、ある種のミネラルが増量してあったり、嗜好性を高めるための工夫として脂肪などが増量してある食餌を避けるために使うことが多いと思います。これらは、すべて普段から飼い主さんがやっている、当たり前のことばかりです。
また、何をもって猫ちゃんが適切な栄養状態であると判断するのかというと、体格にあった体型かどうかを見た目で判定したり、肋骨近辺の皮下脂肪の付き方を触って考えます。何か特別な検査方法があるわけではありません。つまり、猫ちゃんの栄養管理の方法や栄養状態の評価方法は、意外と大雑把で限られているということです。
まずは、猫ちゃんの栄養管理を行うために、知っておくべき猫の体質についてお話しします。猫は肉食動物のため必要な栄養素が人とは異なります。また、炭水化物の消化能力や処理能力が高くありません。食餌中の甘みよりも脂肪や蛋白質の味によって嗜好性が良くなります。本来、猫は一頭で自分より小さい動物を待ち伏せし、狩りを行うことで食料を得ています。そのため、胃は小さく、腸も比較的短い作りになっています。つまり、動物の体温程度に温めた食餌をより好み、高栄養で消化性の高い食餌を少しずつ、一日に何度も食べるのが理想的です。また、様々な原因で急激に食欲が低下すると、全身的な障害(肝臓への負担など)が起こりやすいと考えられます。猫はもともと乾燥地帯の動物と考えられているため、尿を濃縮する能力と、その代わりの脂肪を貯蔵する能力に長けています。つまり、水分の摂取量が少なくてすむようになっています。ただし、裏をかえせば水分不足に気がつきにくい、脂肪を溜め込みやすいともいえます。また、避妊や去勢手術を行っている猫ちゃんでは、代謝能力が落ちていることもあって、特に太りやすくなると考えられます。
次に周囲の環境が猫ちゃんの食生活に与える影響についてお話ししましょう。飼い主さんが最初に与えた食餌が生涯の嗜好パターンを決定します。また、それは猫ちゃんの経験、例えば食べた後お腹をこわした食べ物、薬を混ぜたことがある食べ物など、からも影響をうけます。余談として、投薬によってストレスを感じ、食欲が落ちる猫ちゃんが多いため、日頃から薬を飲ませる練習、例えば口を触ったり、開けたり、猫ちゃんの好きなものを薬に見立てて投与することなどは、大切だと思います。また、日常の運動量や部屋の温度によっても栄養の要求量は左右されます。気温が低いと栄養要求量は高くなり、高いと食欲は落ちます。
猫ちゃんの食欲や代謝を正常に保つためには、日頃のストレスを減じる努力も必要です。飼い主さんや同居動物との良好な関係、急な環境の変化を避ける、休息場所を作る、適切な運動や狩猟本能を発揮できる遊びができるなどは、栄養管理の効果を最大限に発揮するために大切なことでしょう。
さて、少し賛否両論的な話をします。猫ちゃんの食餌の回数は何回が良いのか?猫の体質から考えると、一日中食餌が食べられる状態にしておいて、猫ちゃんが好きな時に好きなだけ食べられる方が良いのでしょう。しかし実際は、食餌の鮮度を保つために、また食餌の量を把握し、食べ過ぎを防ぐためにも、一日の食餌量を決めて何回かに分けて与えるほうがいいのではないでしょうか。食餌は1種類に決めた方がいいのか?バランスさえ良ければ1種類でもかまわないと思います。もちろん、いろんな食材を与えた方が、栄養的にも、精神的にも、食餌に対する体の反応(アレルギーなど)についても、より良いといえるのかもしれません。ただ、市販の食餌にはいろいろな味付けがあると言っても、成分や原材料についてはそれほど差がないと思われます。主食を一種類にきめて、副食としていろんな食餌を交互に与えることのほうが良いのではないでしょうか。
最後に猫ちゃんの栄養管理について具体的にお話しします。栄養管理といっても、あまり身構えて行うものではありません。無理をしては続きません。まず、1ヵ月くらいの食生活をノートに記録しましょう。猫ちゃんがどんなものを、どれだけ、何回くらい食べているかについて記録してください。また、排便尿の回数や状態、飲水の量、発情周期、運動量なども分かれば、より有用かと思います。また、お家では一週間に一回くらい体重を測りましょう。それによって、飼い主さんも、猫ちゃんがどれだけ食べているのか、自身がどれだけ与えているのかが客観的に判断できると思います。次にそのノートを持って、猫ちゃんとともに動物病院に行きましょう。
動物病院では身体検査や尿検査、血液検査を行います。身体検査によって、体型や体格、被毛や皮膚、歯、筋肉、関節、眼、心臓の状態などをチェックします。尿検査や血液検査によって、隠れていた病気や臓器の機能低下、代謝の異常を判断します。必要ならば追加検査を行います。それらを総合的に判断して、栄養管理法について検討し、調節しながら、経過観察を行います。サプリメントなどについては、本人の消化や代謝に負担をかけないように、主食がしっかり決定した時点で考えます。余裕をもって栄養管理が開始できれば、その調節方法についても飼い主さんの意向や状況、猫ちゃんの反応を見ながら行うことが出来るでしょう。飼い主さんや猫ちゃんの状況にあった、よりよい栄養管理を考えていくことが大切です。